死冠と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。ドラゴンクエストやファイナルファンタジーのようなRPGのアイテムを想起する方もいるでしょうが、医学的には誤りです。死冠とは簡単に言うと、人間の下半身に存在する血管の破格のことです。
破格とは何か
人間は誰一人として同じ体を持っていません。人間という生物の種が同じでも、体内の構造は僅かながら異なります。人体はさまざまなバリエーションがあります。
臓器が欠けていたり、機能に障害があったりする場合は奇形と呼びます。
しかし生活に何ら障害の無くても、筋肉や血管の一部が欠けていることが人間には往々に起きます。この状態のことを破格と呼びます。
参照:解剖学講座細胞生物学教室/山梨大学医学部・大学院医学工学総合研究部 - 学部 [医学科](人体解剖学系統講義)
自分が健康で病気がないと感じている人も、実は他の人に存在する血管を持っていなかったりします。(異常な事では無いので心配する必要はありません)
破格は珍しく、教科書には基本的に載りません。教科書は人間の正常構造しか載せていません。ですから手術の際はたとえ患者に破格があっても、医師は臨機応変に対応しなければいけません。
死冠(corona mortis)の定義
https://blogs.yahoo.co.jp/gdmfd345/4033546.html
プロメテウスより引用
人間の体の中心には腹大動脈という非常に太い血管が走っています。やがてこれは左・右総腸骨動脈に分岐します。総腸骨動脈はさらに、内・外腸骨動脈へと分かれます。
内腸骨動脈は閉鎖動脈(obturator artery)という壁側枝を出す一方、外腸骨動脈は下腹壁動脈(inferior epigastric artery)という枝を出します。
閉鎖動脈・静脈・神経の三つはみんな閉鎖孔と呼ばれる穴に入っていきます。下腹壁動脈は外側臍ヒダの中にあります。閉鎖動脈と下腹壁動脈のこれら二つが死冠の形成に寄与します。
閉鎖動脈の恥骨枝と下腹壁動脈の恥骨枝は吻合し、連絡を持ちます。
死冠 - meddicより引用
しかし閉鎖動脈は欠損したり細かったり未発達なことがあり、下腹壁動脈の恥骨枝が代わりに閉鎖孔に入ることがあります。
この恥骨枝がまさに死冠(corona mortis)です。
死冠の名前の由来
Pelvic Ring Injuries | Musculoskeletal Keyより引用
死冠という強烈な名前の由来は「手術の際に注意すべき重要な動脈」であることから名づけられました。過去にヘルニアの手術において切断して、大量に出血してしまった例があるそうです。
縁起は悪いですが、学生にとっては印象に残りやすい用語の一つです。
死冠があっても何か病気にかかりやすくなることは無いはずなので、手術以外では特に心配する必要はありません。
最後に
医学部の解剖実習中に破格が見つかるのはかなり珍しいことです。死冠は自分たちの学年の約30班中、2班しか見つかりませんでした。
毎年、破格が見つかると先生方はその写真を撮ります。学問的にとても貴重な例だからです。今後の学生への教育ために、生かされていくのでしょうね。
死冠は何故か毎年試験に出されている用語でした。覚えておいて損はないでしょう。
以上です。
参考にした参考書